Feeds:
投稿
コメント

Archive for the ‘研究室’ Category

左からトッサヴァイネンさん、大囿准教授、白松助教

2014年3月、新谷虎松教授、大囿忠親准教授、白松俊助教らの研究グループ(情報)がLinked Open Data チャレンジ Japan 2013にて、データセット部門優秀賞を受賞した。Linked Open Data(以下、LOD)は、政府や民間団体が発信したオープンデータなどをwebの技術を用いてコンピュータが扱い易い形式へと変換し、インターネット上に公開し共有することで、情報をわかりやすい形で迅速に伝達することができる仕組みや新しいサービスを立ち上げていこうという試みである。LOD チャレンジ Japanは、アメリカやヨーロッパなど世界中のあらゆる分野で導入が進んでいるLODという仕組みを日本でも推進し、それにチャレンジした作品を募るコンテストだ。

日本でオープンデータというと、行政が公開しているオープンガバメントデータが挙げられる。オープンガバメントデータでは例えば、少子高齢化問題など行政だけでなく、専門家や市民が一丸となって解決する問題を扱っているが、行政がオープンガバメントデータを公開してもデータの利用の仕方が分からないといった問題が存在する。愛知県内でも積極的にLODに取り組んでいる自治体が存在し、住民に積極的に地方自治に参加してもらえるような仕掛けを行っている。

今回の「復興目標LOD」では、震災復興のための各目標に対して、目標間の関係や市民との関係などを整理し、LODとして提供するところがユニークであること、中でも目標を整理するためのデータモデルを作成することが重要であり、震災復興だけでなく社会問題など適用範囲が広いことが評価されての受賞となっている。受賞理由にもある通り、「復興目標LOD」は震災復興目標だけでなく他の問題解決のためのLODとして応用することが出来る。そこで、同研究グループでは現在トッサヴァイネンさん(情報工学専攻)が中心となって『ゴオルシェア』というwebアプリを開発している。多くの社会問題は利害関係が複雑に絡み合っていることが多く、解決のためには多くの人が集まった方がいい。しかし、多くの人が一同に会することは殆ど無い。その問題を解決するために誰がどの課題をどんな道筋で解決しようとしているかをLOD化して共有することで、問題意識の似た他者との協働・協力の可能性を検討しやすくなったり、有力者が何をしようとしているかなどの透明性を向上させたりすることも出来る。

白松助教は「同じ目的のデータモデルが乱立すると無駄な変換コストがかかるため、共通の規格を整備することが重要です。昔からやろうとしていることがようやく花開きつつある。オープンデータの規格で日本発のものを作りたい。現在研究で苦労している点はどうやってユーザを増やすかという点。イベントで実際に体験してもらって簡単だとわかってもらうのが大事。ユーザーに使ってもらうためには技術的な側面とフィールドワークの側面での開発が必要で、情報工学の人間としてフィールドワークにも力を入れていきたい。」と語る。

今回の受賞を受けて、白松助教は「みんなの役に立つことをしたいと思ったとき、気軽に参加出来るようにしたい。自分の気付かなかった場所に目を向けるきっかけになってくれたらいいなと思う。」また、大囿准教授は「僕たちが作ったものには無関心であった人をより社会に参加させる力があると考えている。より、人と人とが繋がることが出来るようになれば」と話してくれた。『ゴオルシェア』を開発しているトッサヴァイネンさんは「フィンランドではすでにオープンデータが盛んで、日本と国際コラボレーションできてうれしい。日本でもLODについて広めていけたら」と語った。

日本でオープンデータの流れが進みだしたのがちょうど去年頃であり最近の出来事であり、今後オープンデータは様々な問題を人々が協力して解決していくためのシステムとして期待される。データ間のリンクを作るという事は人と人とのリンクを作ること、オープンデータの目指すものは人と人とが繋がっていくことであると言えるのかもしれない。

Read Full Post »

亜鉛の抗酸化作用を発見

錯体化学会賞を受賞した増田秀樹教授。

錯体化学会賞を受賞した増田秀樹教授。

本学の増田秀樹教授(生命・物質)の研究グループは、亜鉛イオンに活性酸素を無害化する効果があることを世界で初めて発見した。亜鉛イオンが無害化する活性酸素はスーパーオキサイド(以下、超酸化物)と呼ばれるもので、人間が呼吸で取り込む酸素のうち約2%がヘモグロビンから電子を奪って離脱することで生成される。超酸化物はイオンの電子配置が不安定であるため非常に危険な物質で、がんを誘発し老化を促進するとされている。そこで体内ではスーパーオキシドディスムターゼ(以下、SOD)という酵素で無害化を行っている。
SODには銅と亜鉛の原子が含まれており、今までは銅が超酸化物の無害化にかかわっていると予想されていたが、今回増田教授らは亜鉛に着目して研究を進めた。その結果、亜鉛イオンにも超酸化物の抗酸化作用があることが分かった。さらに、数種の試験用化合物のうち亜鉛と結合する余地のないもののほうが、抗酸化作用が大きいことから、抗酸化作用に亜鉛との結合は必要ないことまで導き出した。これは亜鉛イオンの陽イオン性が超酸化物の陰イオン性をひきつけ、ひきつけられた超酸化物のエネルギーが他の超酸化物より小さくなることから他の超酸化物から電子をもらうことにより酸素と過酸化水素に変化することによるものである。つまり、超酸化物どうしで反応しているのである。
SODは体内で処理できる超酸化物の許容量を超えた場合などに体外から摂取する必要があり、また、SODの保有量と寿命には相関関係があるとされている。そこで亜鉛は人体に無毒であり、効果のある構造まで分かっていることから今後はこれを使用した創薬やビタミン剤の研究がなされていくだろう。増田教授は「これから薬として使えるようにするのはどうしたらいいかを考えていきたい」と述べた。なお、このことについて書かれた亜鉛創薬の論文はアンゲヴァンテ・ケミーというインパクトファクター13以上の論文誌に掲載され、さらには、表紙にも採用されている。
また、増田教授はこの秋、錯体化学会賞を受賞している。錯体化学会賞とは錯体化学会会員の中から、特に業績が優れ、錯体化学の発展に寄与したと認められる研究者に贈呈される栄誉ある賞である。増田教授は生体系の分野を取り入れ、さらに錯体化学を他分野まで応用させるなど先導的研究を行ったことなどが評価され受賞に至った。今回の受賞について増田教授は「名工大で今回の賞を受賞したことは大変意義のあるものである。普段は他大学と比べがちだが今回受賞できたのはグループの力でもあり、我が国でのその高い位置づけを示すものであり、胸を張っていい」と語った。
現在、燃料電池が水素と酸素が反応して水を生成するクリーンなエネルギーであることは誰でも知っているが、実は同様の反応は人の細胞の中でも行われている。他にも、有用な化合物の工業的製造法は多々確立しているが、これら工業的製法は環境に大きな負担を強いている。しかし、これらと同様の反応を生物が行っているものもたくさんある。増田教授は「今すぐにとは言わないが、少しずつでも環境に負担をかけない、生物機能を摸倣した工業的製造法を確立させていくことが目標だ」と今後の方針について述べた。

Read Full Post »

認知症の新診断法を提唱した加藤昇平准教授。

認知症の新診断法を提唱した加藤昇平准教授。

加藤昇平准教授(情報)の研究が研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)に採択された。A-STEPは、大学等で生まれた国民経済上重要な研究成果を実用化につなげるための国家の技術移転支援プログラム。実用化への実現度合いから、フィージビリティスタディステージ(ステージⅠ)、産学共同促進ステージ(ステージⅡ)、実用化挑戦ステージ(ステージⅢ)から構成されており、加藤准教授は書類審査、面接審査を経てステージⅡのハイリスク挑戦タイプに選ばれた。
加藤研究室では、「感性・知能ロボティクス」、「人工生命・人工社会」、「生体情報と音楽情報科学」の3分野を中心とした人工知能技術の研究を行っており、今回は、音声解析と生体情報の技術を医工連携研究へ応用した実践的プロジェクトである「非専門家でも短時間で実施できる『軽度認知症スクリーニングツール』の研究開発」という研究で採択された。この研究は人間の発話音声に含まれる韻律特徴(高低や強弱など)から認知症かどうかを判定するもので、話し相手の感情を理解し心を通じたコミュニケーションができるロボットの開発で培った技術を応用している。
認知症は早期発見が重要であるが、高齢者の中には病院での受診に抵抗を感じる人も多い。現在の診断では専門医と質疑応答する方法や脊髄に造影剤を注射し、脳の状態を検査する方法が用いられ、受診者の負担が大きい。しかし、新たな方法ではロボットや家族・知人との会話音声のみから判断できるため、専門医へ受診すべきかどうかを事前に手軽にチェックができる利点がある。実用化に向けては方法を模索している段階で、スマートフォン用アプリとして各端末に搭載する方法や高齢者介護施設等にロボットを設置する方法などが考えられている。
加藤准教授は「少子高齢化が進み介護や福祉がより重要な世の中になると考えられる中で、この研究は社会的に意義が高く、使命感がありやりがいを感じている。若者には将来を豊かにするためにもっと輝いてほしい」と話した。

Read Full Post »

女性科学者 日本奨励賞を受賞した小原睦代さん(左)と中村准教授(右)。

女性科学者 日本奨励賞を受賞した小原睦代さん(左)と中村准教授(右)。

9月11日、2013年度 第8回「ロレアル‐ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」が発表され、小原睦代さん(未来材料創成D2)が本学からの初の受賞者となった。この賞は日本の若手女性科学者が、国内の教育・研究機関で研究活動を継続できるよう奨励することを目的として、日本ユネスコ国内委員会の協力のもと、日本ロレアル株式会社により2005年に創設された。博士後期課程に在籍または進学予定の女性科学者で、物質科学及び生命科学から毎年各2人ずつ選出される。
小原さんは研究のやりがいを多くの人に知ってもらい、女性研究者を志す人が増えてほしいとの思いから、この賞への応募に至った。小原さんの研究分野は有機化学・不斉合成であり、「酵素を凌駕する触媒創製、新触媒を用いて医薬品分子の左右を作り分ける」という研究の成果が評価され、物質科学分野で受賞した。
医薬品には鏡像異性体が数多く用いられている。片方は薬効があるが、もう片方は毒性を有し、副作用をもたらす物質も多々あるため、医薬品を作る過程において鏡像異性体の作り分けが重要である。生体内での反応を促進する酵素は天然の触媒であり、環境にやさしい合成ができるなど様々な能力があるが、特定の物質の合成しかできないため、医薬品などの複雑な物質の合成には使用できない。そこで、小原さんは酵素に多く含まれる〝イミダゾール〟にヒントを得て、類似骨格をもつ光学活性な〝イミダゾリン〟を用いることで、立体選択性を制御しながら色々な化合物を効率よく、環境にやさしく合成できる触媒の開発を行った。そして、新しく作った触媒を使って多くの鏡像異性体化合物の作り分けを可能とし、触媒の有用性を示した。この研究は医農薬学、化学工業の発展への貢献が期待される。
今回の受賞について小原さんは「先生や先輩、後輩の支えがあって成果を残せたので、本当にみんなに感謝しています。受賞を通して少しは恩返しできたかなと思います。また、自分以外の受賞者はみな既に博士を卒業し、助教や特任助教という形でアカデミックに残っている大先輩ばかりで、刺激になりました。今後、この賞に見合った研究をしていかなければと気合が入りました。将来は製薬会社に入って、世界中の病気で苦しんでいる人を救えるような新薬を開発する仕事に携わりたいです」と話した。
また、中村修一准教授(生命・物質)は自身の研究室に所属する小原さんの受賞を受け、「非常に素晴らしいことだと思います。名工大の研究室でも日本・世界に通用するということを示してくれました。今回彼女が女性研究者として身近なロールモデルとなり、名工大の女性の学生にとっては勇気づけられる賞ではないかと思います。また、名工大に興味を持つ高校生が増えるきっかけになったらいいなと思います。日本の女性研究者の割合は約13%と少ないですが、この賞は女性がもっと活躍できることを示していると思います」と話した。

Read Full Post »

王・安在研究室所属の勝健太さん(情報M2)が電子情報通信学会環境電磁工学研究会にて若手優秀賞を受賞した。環境電磁工学研究会とは電磁両立性(EMC)に関する研究・開発の活性化を目的として、 同分野の研究に従事する若手研究者を対象とした「若手研究者発表会」を開催しており、その研究発表について新規性、有効性、妥当性、発表技術を総合的に評価し、33歳未満の参加者十数人の中でも優秀な3人の発表者に「若手優秀賞」を授与している。
勝さんが所属している王・安在研究室では、生体インプラント通信における電磁両立性の研究も行っており、カプセル内視鏡の性能の向上を目的として研究を進めていた。体内からの無線通信は人体からの大きな減衰を受けるため低周波が主流である昨今、高周波数帯での高速通信が可能になれば手術中のリアルタイムでの観測や、カプセル内視鏡の位置を制御しながらの観測が可能になる。そこで、勝さんは高周波数帯域でのインプラント通信についての研究をしていた。
今回、若手優秀賞を受賞した勝さんの研究の内容は『広帯域雑音を有するUWB-IRエネルギー検出時間に対するBER特性』というものだ。体内から体表または体内同士で通信するインプラントボディエリアネットワーク(以下、インプラントBAN)技術に、超広帯域インパルスラジオ通信方式(以下、UWB-IR)が候補の一つとして適用可能であることを示した。UWB-IR方式は非常に短いパルスを用いることで、高速での情報伝送や低消費電力を達成でき、受信側にエネルギー検波方式を採用すれば、回路構造も極めて簡単であり実装が容易なことが知られている。しかし、UWBの周波数が高いためインプラントBAN通信における信号減衰が大きく、良好な通信性能の実現は容易ではない。そこで、UWB-IR通信における広帯域雑音の取り扱い方を検討し、それを基にエネルギー検波方式におけるエネルギー検出時間の最適化を行い通信特性の向上を図った。それだけでなく、生体等価液体ファントム(人間の生体組織の電気的な性質を模擬した液体)を用いて実験的に評価し、最適な検出時間におけるビット誤り率特性(BER特性)を明らかにし、インプラントBANへのUWB-IR通信方式の実現可能性を示した。
今回、若手優秀賞を受賞した勝さんに苦労した点を聞くと、「インプラントBANへの実現可能性を示す際に、計算機シミュレーション、ファントム実験(人間の生体組織の電気的な性質を模擬した液体を使った実験)、海外での動物実験を行ったが、当初は実験がなかなかうまくいかったので苦労した。受賞という形で認められて嬉しい。他の受賞者が企業の研究者から選ばれる中、とても名誉なことだ」と語った。

Read Full Post »

本学の伊藤孝紀准教授(建築・デザイン)が「NITY」と「OSORO」で2013年度グッドデザイン賞を受賞した。グッドデザイン賞は有形無形に問わず、「そのデザインがくらしを、社会を、豊かにしうる」ことが評価されたものに対して贈られる最高の賞である。
NITYは2011年から本学で実用化を目的とした社会実験が数度にかけて行われたコミュニティサイクルである。2011年は世界初の交通系ICカードを活用したシステムの提示だったが、2012年の社会実験では独自のデザインを発表。車体の色は黒と黄色が主体となり、自転車返却時にフレームの黄色が返却台の黄色とマッチすることで「N」の文字が浮き上がる楽しさを演出している。ほかにも利用率向上につながる工夫がなされており、サドルの高さや荷台の設置など利用者の多数を占める女性に主眼を置いたデザインとなっている。なお、このNITYは公益社団法人日本サインデザイン協会が顕彰する2013年度SDAデザイン賞の最優秀賞も受賞している。
OSOROは眼鏡メーカーのMonkeyFlipと共同開発し商品化されたヒトとの繋がりを実感できる眼鏡である。東日本大震災以降、ヒトとのつながりが強く求められる時代となった。そこで登場したのがOSOROだ。OSOROには2つの形状があり、片方はやや大きめでレンズ部分のフレームが凹型となっている。もう片方はやや小さめで凸型のフレームとなっており、2つの眼鏡は互いに重なり合うデザインになっている。このようなさりげない仕掛けが施された眼鏡、OSOROが大切な人との繋がりを実感させてくれる。
今回の受賞を受けて伊藤准教授は「デザインは一人でやっているのではなく技術者や販売者などチームでやっており、それが評価されたことで次へのモチベーションにつながる。この地域の企業と連携して、デザインの力で活性化したい」と語った。今後は名古屋の街を良くしたいという強い想いのもと、NITYの実用化やOSOROのようなデザイン活動などに取り組んでいくとのことである。伊藤准教授のような想いが、さまざまなものに形を変えて名古屋の発展につながっていくのだろう。

Read Full Post »

窒化物マルチビジネスセンター外観。

窒化物マルチビジネスセンター外観。

9月1日、窒化物半導体マルチビジネス創生センター(以下、センター)が稼働を開始した。センターはこれまで本学が保有してきた「シリコン基板上に窒化ガリウム結晶を成長させる技術」を利用した窒化物パワーデバイスの実用化・事業化に向けた研究を目的として設立された。本学の保有する技術の利点は、窒化ガリウム半導体は基板にシリコンを使うため今まで主流であったシリコン半導体の技術が流用できるという点である。窒化物パワーデバイスが実用化すれば、これまで以上に省エネ効果のある製品(LED照明、消費エネルギーの少ない電子デバイス)が生産しやすくなり、家電や自動車などの省エネ化、小型化などが期待できる。また、センターでは大学と企業との共同研究が行われている。共同研究には約11社の企業が参加しており、大学の持つ基礎的な研究成果を迅速に実用化できると考えられている。
センターでは「結晶の作製」「結晶の性能の評価」「それを使用したデバイスの作成」という一連の工程をすべて行えるようになっており、特に結晶成長に関しては今まで使われていたものよりも2倍の直径を持つ結晶を作ることができる装置が2台導入されている。これによって今までよりも大きな結晶を作ることが可能となっている。また結晶を作成する際にはガスが必要であるため、大きなガスボンベを運び込むためのクレーンも設置されている。
これからの半導体の研究について、江川孝志教授(電気電子)は「現在では海外に半導体製造の技術が流れてしまっているが、そうならないように簡単にはまねできない技術を開発して、なるべく早くそれを産業として成り立たせることが必要だ」と語った。センターによって素晴らしい技術が実用化されていくのもそう遠い話ではないだろう。

Read Full Post »

福田功一郎教授(パリ ヴォージュ広場にて)。

福田功一郎教授(パリ ヴォージュ広場にて)。

福田・浅香研究室の福田功一郎教授(環境材料)の研究グループによって、600℃以下で高い酸化物イオン電導性を示す固体電解質が開発された。従来の固体電解質は燃料電池に使う際の運転温度が650~700℃であったが、今回開発された電解質では600℃以下にできる可能性がある。運転温度の低下には、比較的耐熱性が低くて安価なステンレスを燃料電池の金属部品に使用することによるコストダウンや、装置の起動終了に伴う熱応力による電池セルの劣化低減などのメリットが期待できる。しかし、この電解質を使用した燃料電池の開発はまだ研究段階であり、実用化には長い時間と企業の協力が必要となるそうだ。
福田・浅香研における固体電解質の研究はフランスのリモージュ大学との共同研究がきっかけとなって始められた。当初は先方から送られてくる試料の結晶構造解析を担当していたが、福田・浅香研が試料の合成・解析・評価のすべてを一貫して行っていたこともあり、自分たちでも開発してみようということで研究を開始したそうだ。
今回開発された電解質は結晶の向きを一方向に揃えることで材料の持つ特性を大きく引き出している。結晶の向きを揃えるには様々な方法があるが、福田・浅香研では組成の異なる2つの圧粉体をサンドイッチ状に重ね合わせ、高温で加熱することで結晶の向きが揃った多結晶体を作り出している。この方法は今まで他の研究者たちによって試みられていた方法に比べ、とても簡単で費用も掛からない方法である。この配向現象は研究中に偶然発見されたものであり、研究室で合成した試料を解析・評価まで行う福田・浅香研だからこそ開発できた方法といえるだろう。今後について福田教授は「一人一人の学生に高いレベルで合成・解析・評価手法をマスターしてもらい、共同で新規材料の研究開発に邁進したい」と述べた。
福田教授は「一隅を照らす」という言葉を座右の銘としている。たとえどこにいてもそこで光り輝くという意味である。「名工大の学生はレベルが高く、教員の方が刺激を受けることも多い。自分自身が置かれたその場所で精一杯努力し、光り輝く人材になってほしい」と福田教授は語る、福田教授の研究室からは今後も優秀な人材が生まれていくだろう。福田・浅香研の今後により一層の期待をしていきたい。

Read Full Post »

試薬の開発に大きく携わった柴田哲男教授。

試薬の開発に大きく携わった柴田哲男教授。

柴田哲男教授(生命・物質)の研究グループは、トリフルオロメチル硫黄(以下、SCF3)化合物を従来よりも大幅に安く、かつ安全簡単に合成できる画期的な試薬の開発に成功した。SCF3というユニットをもつ医農薬品は高い薬理作用が期待されるため、製薬・農薬業界から注目を集めている。
SCF3基は、その小さな化学構造からは想像できないほどの高い脂溶性をもつ官能基である。そのためSCF3基は医薬品候補化合物に導入されると、母体の化学構造に大きな変化を及ぼすことなく、脂溶性、すなわち生体細胞内への取り込まれやすさを格段に上げることができる。しかし、これまでSCF3基を導入するためには高価で毒性の高い塩素系のSCF3化試薬が用いられており、また特殊な実験設備も必要であったため探索研究には適していなかった。
今回、柴田教授らが開発したSCF3化試薬は扱いやすくコスト面・安全面でも非常に優れたものであり、これまでのどの範疇にも属さない斬新な化学構造を持つうえ、従来とは全く異なる反応メカニズムでSCF3化を起こすという。特筆すべきは、SCF3基ではなくその酸化体であるSO2CF3基と超原子価状態のヨウ素を同一炭素に組み込んだ異例の化学構造にある。安定なこの試薬に銅を加えると炭素ヨウ素結合が切断され、それが引き金となってSO2CF3基の還元反応が連続的に始まる。最終的に高活性なSCF3+が発生し、速やかにSCF3化反応が起こるという。この試薬は、小さな化学構造の中に相反する安定性と反応性という2つの性質を絶妙のバランスにより組み込んだもので、有機化学とフッ素化学に精通した柴田研究室だからこそ開発し得たものだろう。
実は、異常とも思える反応メカニズムでSCF3+が発生する仕組みは予期していたものではないそうだ。これは学生が遭遇した奇異な実験結果から生まれたものであり、学生の注意深い観察力と研究への熱意がなければこの試薬は発見されなかったという。まさに柴田研究室のセレンディピティによるものだと言える。
現在、試薬の実用性の検証と販売に向け大手化学メーカーと交渉を行っている。柴田教授は「この画期的な試薬を広く世界に提供し、製薬・農薬業界の人たちの新薬開発研究に役立ててほしい。21世紀になって新薬が出にくい状況が続いているので、この試薬が突破口を拓くにきっかけになってくれればと願っている。また、この試薬によるフラスコ内での連鎖反応が、現実社会にまで連鎖し、名工大初の創薬ビジネスへと繋がっていけばいいね」と語った。

Read Full Post »

日本レオロジー学会奨励賞を受賞した玉野真司准教授。

日本レオロジー学会奨励賞を受賞した玉野真司准教授。

平成25年5月16日、玉野真司准教授(機械)が2012年度日本レオロジー学会奨励賞を受賞した。
レオロジーとは「流動」という意味を表すが、水などの粘性のみを持つ物体についてではなく、界面活性剤水溶液などの粘弾性をもつ非ニュートン流体の流れと変形を扱う分野である。今回玉野准教授は「粘弾性流体の流動と抵抗低減」に関して2つの研究を行い、その功績が認められ表彰を受けた。
一つは粘弾性流体の容器内においての旋回流れに関する研究である。粘弾性流体である高分子水溶液を底に回転円盤を付けた容器に入れて流れを作ると、流体の対流する方向が逆になるなど通常の液体とは異なる挙動を示すのだが、粘弾性流体の渦を着色して観察すると、回転円盤近くでリング渦という渦が周期的に現れることが確認された。リング渦とは容器の底に渦が発生し鉛直方向に成長した後、分離することで発生するリング状の渦である。今までこのような流動現象は報告されたことはなかったため玉野准教授は渦の周期や流れの速度などを測り、流速計測システム(PIV)でその特徴を詳細に調べ、さらに数値計算で定性的な二次流れを再現することに成功した。
もう一つは粘弾性流体の乱流境界層流れの抵抗低減に関する研究である。壁などに流体を流すと壁近くにはヘアピン渦などの乱流の渦が多く発生し、壁と流体の間の摩擦を増大させてしまうため流動に対する抵抗が大きくなってしまう。よって渦を弱めることで抵抗を減らし、少ない力で多くの流体を流せるようにすることがこの研究の目的である。玉野准教授の行った実験においては水に界面活性剤を少量添加し、その流れを分析して水単体の場合の流れと比較することで、界面活性剤を実験装置の上流側から添加すると下流側において渦が消滅することが確認された。この効果はトムズ効果と呼ばれ、高分子の物質においては昔から知られており、石油のパイプラインなどに利用されてきたが、界面活性剤水溶液の境界層流れにおいては不明であった。玉野教授はPIVを用いて研究を行い、境界層流において初めて界面活性剤でのトムズ効果を研究し、数値シミュレーションで再現することにも成功した。
今回の受賞の感想として玉野准教授は「この分野はまだまだ今後発展していくと思う。レオロジーはいろんな人が色々なアプローチで実験したり計算したりしているが、日本の今までやってきたことが評価されたということ、これを励みに精進していきたい」と語った。研究の今後の大きな目標は界面活性剤の抵抗低減などを再現できる構成方程式を新たに作ることだという。今までは高分子の構成方程式ばかりが作られてきたので、これが実現すれば大きな功績となるであろう。今後の玉野准教授の研究に期待していきたい。

Read Full Post »

Older Posts »